INFORMATION

《深山桜及兼樹振(みやまのはなとどかぬえだぶり)》

初演
文政元年(1818)3月都座
『曽我梅菊念力*(そがきょうだいおもいのはりゆみ)』二番目大切

① 国立音楽大学附属図書館竹内道敬文庫所蔵(07—4502—20)
(1)半紙本一冊
(2)全五丁(表紙〇・五丁、本文四・五丁) 
(3)八行
(4)曽我梅菊念力*(そがきょうだいおもいのはりゆみ)第二番目大切/都座/深山桜及兼樹振(みやまのはなとゞかぬゑだぶり)
(5)けいせい 座頭 仙人 仕事師
(6)「七化一」「七化二」「七化三」「七化四」「七化五」
(7)板元 ふきや町 山本重五郎
(8)K KOMATSU
(9)七変化所作 尾上菊五郎相勤申候 禿しげり 尾上松助
(10)長唄 岡安喜三郎 芳村伊久四郎 岡安喜久三郎 岡安喜平次 三味線 杵屋勝五郎 杵屋和吉 杵屋勝三郎 杵屋浅吉 ふへ 住田清七 同 待田佐吉 小つゞみ 田中伝左衛門 大つゞみ 福原門左衛門 太いこ 福原佐次郎 同 田中伝四郎 太いこ 坂田半治 
〈備考〉
「怪談(くわいだん)の俳優(わざをぎ)に/七変化の容姿(すがた)を/やつして」(角書) 「狂言作者 鶴屋南北 篠田金治」「ふり附 藤間大助 藤間新三郎」「上」(表紙) 「杵屋勝五郎述」(「けいせい」内題下)

〈考察〉 
 《深山桜及兼樹振》は3代目尾上菊五郎(1784~1849)が踊った七変化舞踊。春は長唄《傾城》・長唄《座頭》・清元《小袖物狂》、夏は長唄《仙人》、秋は常磐津《玉藻の前》・長唄《仕事師》、冬は長唄《娘》。このうち、清元《小袖物狂》が《保名》として現行する。
 3代目菊五郎の養父、初代尾上松助(後、初代尾上松緑)は文化12年(1815)に72歳で亡くなったが、妖怪・幽霊・骸骨・天竺徳兵衛などの役を得意とし、早替りや劇中の音曲演奏も行った。この文政元年、市村座の控櫓となった都座は、無人芝居だったにもかかわらず、初春興行の『曽我梅菊念力*』が大当りした。その御礼として、3代目菊五郎に《深山桜及兼樹振》で怪談の七変化を踊らせたことが役割番付の口上に書かれている。
 第一曲《傾城》は、唄い出しの歌詞から《闇の夜の傾城》とも呼ばれている。また、冒頭の〽闇の夜に~花じゃ/\」は安政4年(1857)3月中村座で上演された五変化舞踊《助六姿裏梅》の第一曲《揚巻》にも入っていて、現在、歌舞伎『助六由縁江戸桜』『籠釣瓶花街酔醒』などの陰囃子で揚巻や八ツ橋など傾城の出入に使っている。
 〽雨のみのわ」からはタテ唄の岡安喜三郎の分け口。このうち、〽どこの女郎めとしげりくさって」の歌詞は、長唄《恋傾城》で引用。〽あくたいの初音」は歌舞伎『助六』の揚巻のセリフ。〽ままになるなら」からはワキ唄の芳村伊久四郎の分け口。〽これは廓に~なんの事じゃいな」は長唄《女伊達》(文化6年[1809]9世杵屋六左衛門作曲)の歌詞をほぼそっくり使っている。同じ三下りなので、曲節も引用したかもしれない。
 辻番付には文机にもたれて口に封じ文をくわえ軒先まで首を伸ばしたろくろ首の傾城が描かれている。禿しげりを演じたのは3代目菊五郎の長男、3代目尾上松助(1807~51)で、この時12歳。
 第二曲《座頭》は、二上りで始まり、コミカルな歌詞で座頭が登場。三下り〽様は山谷」以下はタテ唄の喜三郎の分け口で、〽様は山谷の三日月様よ、宵にちらりと」は《垂帽子不器用娘》(文化12年[1815])や《関三奴》(文政9年[1826])、《風流船揃》(安政3年[1856])などにも出て来る当時の流行歌。〽吉田町」は本所にあった吉田丁のことか。〽こづまほらほら」以下はワキ唄の伊久四郎、〽声は聞ても」以下は喜三郎、〽あんまりな」からは伊久四郎の分け口で、タテ唄とワキ唄の掛合。
 〽ひとりすみれを」以下は越後唄で、〽逢ぬ其夜は」以下は返し唄か。その前に〽木琴の拍子どり」とあるので、正本表紙絵のように両手に桴を持ち、木琴を叩きながら唄ったのであろう。そのため、本曲は《木琴座頭》とも呼ばれている。辻番付には両手に桴を持ち太鼓をたたいて猿回しのように一本足のガマガエルを使う木の葉衣の仙人が描かれている。
 第三曲《仙人》は、正本表紙絵の仙人の顔に蝦蟇がはりついており、《がま仙人》の通称もある。曲は三下りで始まる。〽面白や」からは、一の糸を下げて二上りにしたか。〽とんきんなんきん」以下は、同じ初世杵屋勝五郎が作詞した長唄《丁稚》(文化12年[1815])と同じく、唐人言葉が続く。唐人言葉は、古くは宝暦12年(1762)の長唄《布袋》の歌詞にも入っている。
 第四曲《仕事師》は、土建工事に従事する仕事師、鳶の踊。正本表紙絵の右端には、建前に使う飾りの絵が入っている。歌詞の前半にはその建前に関する言葉が並ぶ。〽この町の」から二上りとなり、〽おきやがれ」以下は伊久四郎の分け口。〽やんれ」以下は木遣り。
 なお、この「上」には、「明治二十一子年五月再版」の奥書をもつ丸屋鉄次郎版があり、奥書には「二代目 杵屋勝三郎蔵」の記載がある。

 けいせい
三下り〽闇の夜に 吉原ばかり月夜かな 月じや/\ 春霞 たてるやいづこみよしのゝ 花ぢや/\ 〽しやんとこづまをとりどりに みがく姿も白玉椿 合 さくらに匂ふいつところ もん日まつちの山かぜに 合 袖の梅が香ゑいざまし うつゝの夢をうはざうり 合 露におとせぬ花ぐもり 喜三〽雨のみのわのぬれつばめ ねぐらかす夜をいたづらな 合 どこの女郎めとしげりくさつて 口舌もつ(一丁ウ)れてあくたいの 初音をはるのほとゝぎす 合 ほぞんかけたる命さへ おしうなるのもこなん思へばどふりじやへ 合 伊久 まゝになるなら此里を くらやみにしていつ迄も きぬぎぬしらぬかさね夜着 ふとんを恋の山の宿 とへばうはきな花川戸 〽これはくるわにかくれなき 合 まぶの名取の日より下駄 土手のゆきゝのけんくわざた あいてかわれど川ぞいの 合 堤の桜咲花に 風がけ込しやかた舟 こりやまたなんのこつたなんの事じやいな 二世と三世をひとつまへ ふたへ(二丁オ)心は夏近き かやりにくゆるひとたきの きやらのかほりにひとねふり 〽なるかねに 二階廻りのこゑ更て 合 ともし火くらき屏風かげ 人待ゑりの長廊下 障子のかみをふく風も 白粉の香になまぐさき 合 夜は牛みつやすぎぬらん

 座頭
二上り〽あんまけんぶつ御ひゐき様の はりのつよいを杖にして 合 うきにうかるゝざつとの坊 よんだ座敷は左リか右か 中の/\中座しき それがこちらのあたりまへ ほんにあたりまへ うしろへぞつと恋(二丁ウ)風の 身にしむこへのそゝりぶし 三下り 喜三〽さまは山谷の三日月様よ 宵にちらりと見て見ぬふりの 手ぬぐい深き夕化粧 合 よめかとふめか吉田町 風が身にしむうき勤 伊久 こづまほら/\あしびきの 山下駄の音ちんがらこ 合 ちんがら/\石につまずきやがつくりそつくり がつくりそつくりぬしに 合 あいたしころんでひざがしら ちゝちつともそつとも大事ない さむさいとわぬ柳蔭 喜三〽こへは聞ても見ぬ恋の 月にも迷ふやみぢとは しらぬふりしてどふぞいの ヱヽ 伊久 あんまりな あんまはりひねるといふも色(三丁オ)のくせ さりとは/\やつてくりよ 合 やつてみなさん御そんじの またもくきんの拍子どり 〽ひとりすみれをひばりがくどく 心づくしのつくづくと 思へばさゝがすぎなやら 仇な蕨が手をだして 野辺であふときや若草枕 さいの/\ 〽逢ぬ其夜は心がじれて 向ふ鏡の月かげは はれてもむねがくもるやら あじなきになるうつり香を とぎにねる夜は枕が便り さいの/\ 合 ふけてこさめのくもふかき 〽ありし姿もあらふしぎや ゐぎやうとなつて忽に 消て行衛はなかりけり(三丁ウ)

 仙人
三下り〽谷水の 尽ぬよはひを山人の すみかの松にくらぶらん 〽我もその 合 昔のやどを見おろせば 合 雲をいくへの峯たかく ある夜は霧に袖をかし 合 また水くさをなれごろも 所さだめず西東 飛行自在も風次第 合 おどろにみだす 合 黒髪の ながき月日を小車の 巡りめぐるもいざ白雪の 浮世のちりもほど遠く 酒は霞のゑい心 二上り〽面白や さらばたいこの曲ばちどん(四丁オ)つく/\どんつくどん とんきんなんきん さひれんきやう やうりうし やうりうしなんてんりんどうきん銀花 さいたへ/\ 合 さいたさかりにナア かいだうらうばいじんちやうけ 合 とうくわあうとうたりけんすんていうつくるめいて ひすいちゆやんくわんこうせんせい 合 おもしろや 〽木葉ごろもに雲の袖 霧に紛て行方も そこ路岩根に失にけり

 仕事師
三下り〽見かけより むねのおふとりあづま子男の いぢを建(四丁ウ)まへ帰りもゝ引ならでくつろぎは 五分も仲間の頭ぶん どこのいづくのどなたでも みぢんけちりんこわいとも しらのきをひは 合 たがみでも 蕪かりまたやのむねへ 上げて下縄がつしやうで おめでた酒のうき心 うきにうかれてきたりける 〽見わたせば あさ日まばゆきもふせんの 西も東も花の顔 にぎをふ御代のきやりぶし 二上り〽この町のナアとびの若衆は いさみにいさんで向ふやつはぶんなぐれ にげるやつはかまうなよんやナア 伊久〽おきやがれ/\ いけどふせちがれあれみろ三味せん 身がるでかたからぶんなぐれ じよさいはなくともはやすぎへ 中のつなからかけろへや やんれナア よひこへかけやれよいこれわのナア やんれうて/\ うつたるものには何/\ かぐらのたいこか 合 七種なづなか 合 たん/\狸のはらつゞみ 合 いなかで田をうつおんびやくせう よい/\/\やナア よいこゑかけやれよいこれわのナア やアしめろやれ 江戸の水井戸の水のきをひはだ いさみにいさんでいそぎゆく

① 国立音楽大学附属図書館竹内道敬文庫所蔵(07—4502—21)
(1)半紙本一冊
(2)全二・五丁(表紙〇・五丁、本文二丁) 
(3)八行
(4)曽我梅菊念力*(そがきょうだいおもいのはりゆみ)第二ばんめ大切/都座/深山桜及兼樹振(みやまのはなとゞかぬゑだぶり)
(5)むすめ
(6)「七化六」「七化七」
(7)板元 ふきや町 山本重五郎
(8)K KOMATSU
(9)相模寺の金剛律師 尾上菊五郎 ねこまた 沢村東蔵 あかおに 浅尾鬼吉 さる 坂東薪蔵 川太郎 岩井直吉 きつね 岩井辰三郎 たぬき 仙石彦助
(10)長唄 岡安喜三郎 芳村伊久四郎 岡安喜久三郎 岡安喜平次 冨士田千三郎 冨士田勘蔵 三味線 杵屋勝五郎 杵屋和吉 杵屋勝三郎 杵屋与惣次郎 杵屋栄次郎 杵屋浅吉 ふへ 住田清七 同 待田佐吉 小つゞみ 田中伝左衛門 大つゞみ 福原門左衛門 太いこ 福原佐次郎 同 坂田半治 小つゞみ 望月千之助 同 田中源助 太いこ 田中伝四郎 長唄 冨士田勇蔵 岡安瀧三郎 岡安長三郎 冨士田千十郎 三味線 杵屋伊右衛門 杵屋善太郎 杵屋藤吉 杵屋和五郎 藤間半十郎 杵屋源三郎 藤間勘吉
〈備考〉
「怪談(くわいだん)の俳優(わざをぎ)に/七変化の容姿(すがた)を/やつして」(角書) 「狂言作者 鶴屋南北 篠田金治」「ふり附 藤間大助 藤間新三郎」「下」(表紙) 「杵屋勝五郎述」(「けいせい」内題下)

〈考察〉
 第七曲《娘》は二上りで始まり、〽言わず語らぬ~悪性者」は喜三郎の分け口。このうち大部分は、《京鹿子娘道成寺》二上りの手踊りの部分を引用。〽末のかための~つらにくや」は伊久四郎、〽ふつつり悋気」以下は喜三郎の分け口で、同じく《京鹿子娘道成寺》のクドキや手踊りの歌詞を引用。その後も〽色じゃ一二三四」に鞠唄の歌詞を使う。正本の表紙絵の娘は《京鹿子娘道成寺》の道行と同じくびらり帽子を被り振袖を着て、扇は半開き。〽扇との」以下は三下りで、秋の扇を唄う。〽あら恨めしや」からは喜三郎の分け口で鼓唄。ここで骸骨の姿に変り、〽勇や百鬼夜行」からは金剛律師の姿で登場したか。正本表紙絵では、僧兵の姿をして、長刀を持っている。岩沙慎一『三代目尾上菊五郎』には「この変化所作事は、最後に菊五郎の相模寺の金剛律師覚元と若太夫都伝之助の金沢八郎照元との引っ張りの見得で終わったようである」と書かれている。
 他に6人が登場。このうち赤鬼に扮した浅尾鬼吉(1809~53、後、浅尾工左衛門)はこの時10歳。たぬきの仙石彦助は3代目。
 本曲について『江戸芝居年代記』には「七変化早替り、皆仕掛物珍らしく、堺町に負けぬ大入は、梅幸の大働き大手柄。しかし内実の当りは大吉なり。との評判也」とあり、この後四月八日からの都座は『曽我梅菊念力*』と《深山桜及兼樹振》をそのまま続演、これに『伊勢音頭恋寝刃音頭』が追加上演された。

 むすめ
二上り〽逢ふて恨のかず/\いわば しよやのかねを聞時に 兼てしのぶのあいづはあれど よそにまたるゝ花心 ちりもつもりしまくらがの こがれてふけてあわぬよに 合 喜三〽いわずかたらぬわが心 合 みだれしかみをときぐしの うらかたとへばいく度も どふでも男は 合 あくしよもの 伊久〽すへのかためのナア あのせいしさへいつわりか うそか誠かどふもならぬほどヱヽつらにくや 合 喜三〽ふつゝりりんき(六丁オ)せまいぞと たしなんで見ても情なや なぜ女子にはなにがなる 恨み/\てかこつのも あづまそだちははす花ものじやへ 〽恋のちわ文 合 いつ筆はじめ 春の初夢ついにい枕 かはす弥生の桃の盃 とるやとりどり雛祭り 合 これもめうとか軒のあやめにそひしよもぎのはやさみだれの 雨に水ます天の河原を帰るは牛のお七夕 合 星にたとへて見るや菊月きくの花 咲花のたもとに色じや 一二三四とんとうけたるはづ(六丁ウ)みにはづみしまりのかず つくや拍子の面白や 三下り〽あふぎとの 合 名さへうれしきあいことば 晩にかならずかなめぞと 合 〆て契し袖扇 あはねば胸もひあふぎの こかれてひとり閨の内 よいやさ/\ 合 〽秋のあふぎとおく露を すそにうつして手にとりて 合 女のぢがみはづかしき 便り待へし花扇 よいやサ/\ 合 へたてぬ心神かけて ちかひし伊勢のみだあふぎ わしやわすれまひもの舞あふき 扇/\と重ては うつくしいじやあるまいか 千代万代の末(七丁オ)を待 ツヽミ哥 喜三〽あら恨めしや心から ゑんぶに残るもふしうの りんへるてんもおそろしき 在生の雲晴やらぬ たゞよふ身こそさだめなや 〽勇(いさまし)や 百鬼夜行をごふぶくの ゆふまふのけさ結ひあげ 合 ごうまの衣まくりでに 八つめのわらじふみしめて 合 こゝろにたゆみ長刀に いで物見せんといふまゝに 合 神力仏力くはわりて いづくに化しやうのあるべきと いのり/\しそのこつから 実にこんごう力千人力 古こん無双のわかものやと きせん上下にいたるまで たかきほまれを菊五郎

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